■小松農民車

▼派生型(特殊車両):小松農民車  

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 ある日、とても嬉しいメールがとどきました。
神戸でかなりマニアックなネット古書店を営んでいる、「古書の海 珊瑚海」さんからです。
        ホームページ…http://www.hi-net.zaq.ne.jp/coral-sea/
珊瑚海さんの取り扱う古書はおもに戦史や海戦に関するもので、軍事関係の好きな私が
そういう関連のサイトにリンクさせてもらっているところから、またつながりができたのです。
インターネットというのは、そういうつながりが簡単に、すばやくできるのが最も大きな特長でしょう。

 それでそのメールの内容がまた、私を狂喜させるに十分な濃いものだったんですね。

  近野様 こんばんは。
  リンクを貼らせていただいて以来、ご無沙汰しております。
  この度、ちょっと面白い記事を見つけましたので、お知らせ申し上げます。
  お送りした画像は「自動車工学」昭和35年1月号に掲載されていたものです。
   (中略)
  「農民車」という言葉が当時から普通に使われていたのか、またメーカーの正式な
  商品名なのか、この記事からは断言できませんが、「農民用の国民車」として
  キャプションが付けられています。


うーむ、見れば見るほどかなり興味深いものです。
まず淡路島の農民車、ならびに当時の農耕用車基準と比較すると…
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■244.

      高島式農民車AT85       小松農民車     当時の農耕用車規格
     ・総排気量 0.508L            0.28L          1.5L
     ・最高出力 8PS              6PS           7.5kw(原文のまま)
     ・長 さ   3.310m            2.06m          4.7m
     ・ 幅    1.200m            0.98m          1.7m
     ・高 さ   1.500m            不明           2.0m
     ・軸 距   1.910m            1.150m         不明
     ・最高速度 14.800q/h         14.4q/h        不明
     ・車両重量 780kg            510kg          不明

…となっております。農民車も当時の規格より小さいのですが、小松のものはそれよりも
さらに小さく、例えば市販の軽自動車が今も昔も規格いっぱいに造るのと比べると、そういうことを
なにも気にしていないのがわかります。
 もっとも、昭和三十五年は農耕用車という分類に小型特殊も大型特殊もなく、
そのなかにはあらゆる農耕機械が含まれていたので、基準としてはやや大きめの数値が
設定されていたのかもしれません。
 以下、推測になりますが、小松農民車は運搬用としてでなく「万能作業車」に設定されており、
荷台を考える必要がなかったこと(トレーラーを引いて収穫物を運搬…という記述)、
「農民用の国民車」というからには安価にしなければならないので
できるだけ小さく造ることが求められたのでは、と考えます。
 また、当時の農作業現場はいまよりもさらに狭く曲がりくねった急峻な悪路が多く、
旋回性能も重要視されたに違いありません。一畳の畳と変わらないこの車は、そういう意味では
畦道以外はたいてい通れたでしょう。
 その大きさを農民車と比べれば、エンジン出力は六馬力と高いような気がしますが、これは
動力を外部に使う目的があるからでしょう。別売で「ロータリー」(回転式の耕耘爪のこと)が
あったりしますが、田畑を耕しながら運行するにはなるべく馬力があったほうがいいでしょうし…
しかし反面、この軽そうな車体に六馬力では、あまり深く耕すことはできなかったでしょうね。
和鋤で荒おこしも二連ではなかなか進めなかったのではないでしょうか。
しかし昇降装置ってなんでしょうね…?

 小松はこの小さな車を日本の土地柄にあわせて構想し、なんでもこなせる万能車を
めざしたのではないでしょうか。小型の機械にさまざまな用途を組み込むことがいかに困難であるか、
第二次大戦中の飛行機を見てもわかります(例えが悪いかな)。小松の設計陣にとっては
苦心の作だったでしょう。
 しかし、私が物心ついた時点から考えてもこの種の車は見たことがありません。
この車では棚田の人か牛しか通れない畦道をどうしても進めませんし、そこではもっと安い手押しの
歩行用耕運機のほうが使い勝手がよさそうです。
逆に広々とした平野部の水田では、ギリギリ三人しか乗れないような大きさとこの馬力では、
あきらかに役不足ではないでしょうか。
どうせトレーラーを引くのなら、もうすこし大きな普通のトラクターのほうが使い勝手がよさそうです。
「帯に短し襷に長し」で、残念ながらあんまり売れなかったのでは、と想像します。

 しかしまあ、農業用とはいえ商品に「農民」とか「国民」とかいう名前をつけるあたり、
やはり時代を感じさせますねえ。そういう言葉がまだまだ身近にあったのでしょう。
はたして淡路島の「農民車」がこの小松の車に影響をうけて名付けられたかというと、
ちょっと疑問ではありますが。で、逆に小松が淡路島の農民車に
車名の発想として影響をうけたのかというと……どうなんでしょうね(笑)。
車種としてはややへだたりがあるようですが、ひょっとしたらどこかで出会いがあったのかも、
と想像してみるのもたのしいですね。

 いまみるとなかなかかわいいデザインで(と思うのは私だけ?)、米軍のジープをさらに
小型・簡素化したような印象(また例えが軍事関係に…)です。こういう車があったことが
わかったのはうれしい出来事でした。
 珊瑚海さん、ありがとうございました。またなにか妙な車が目に止まったらよろしくお願いします。
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